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外積とレヴィ・チビタ記号

今回は、ベクトルの外積{bf A}times {bf B}を、レビ・チビタの記号を用いて考えてみたいと思います。
まず下準備として、ベクトルの表記を確認しておきましょう。ベクトルを成分で書く際には、よくアルファベットの添字を用いますが、ここでは数字の添字を用います。
{bf A}=(A_1,A_2,A_3)

外積{bf A}times {bf B}の第i成分は、レビ・チビタの記号を用いて次のように書くことができます。
({bf A}times {bf B})_i=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j B_k
ここでは{bf A}times {bf B}の第1成分を計算して確かめてみましょう。
({bf A}times {bf B})_1=sum_{j,k}epsilon_{1jk}A_j B_k
epsilonが値を持つのはj=2、k=3の場合、あるいはj=3、k=2の場合なので
({bf A}times {bf B})_1=sum_{j,k}epsilon_{1jk}A_j B_k=epsilon_{123}A_2 B_3+epsilon_{132}A_3 B_2
となります。レビ・チビタ記号の定義より、epsilon_{123}=1epsilon_{132}=-1なので最終的に
({bf A}times {bf B})_1=A_2 B_3-A_3 B_2~(=A_y B_z-A_z By)
となり、きちんと外積の形になっていることが分かりました。

このようにレビ・チビタ記号を用いて外積を表しておくと、ややこしい計算をとてもすっきりと書くことができます。これを実感してもらうために具体例を考えていきましょう。ベクトル解析では3つのベクトルの外積{bf A}times ({bf B} times {bf C})を計算することがあるのですが、これを素直にやろうと思うとかなり面倒です。ここでレビ・チビタ記号の出番です。外積{bf A}times ({bf B} times {bf C})の第i成分をレビ・チビタ記号を用いて書き下してみましょう。
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j ({bf B}times{bf c})_k=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j sum_{lm}epsilon_{klm}B_l C_m
ここで注目するべきは、epsilonが2つ出てきている点と、その添字kについて和がとられている点です。レビ・チビタ記号のところでやった2つのepsilonの積が2つのクロネッカーのdeltaの積に入れ変わる公式
sum_k epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl}
を思い出すと
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{jlm}(delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl})A_j B_l C_m
と書けることが分かります。あとはクロネッカーのdeltaの定義に従って計算して行くだけです。
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{jlm}(delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl})A_j B_l C_m=B_isum_{j}A_jC_j-C_isum_{j}A_jB_j
第1項目は{bf A}{bf C}の内積、第2項目は{bf A}{bf B}の内積を含んでおり、これを内積記号を用いて書くと
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=B_isum_{j}A_jC_J-C_isum_{j}A_jB_j=[{bf B}({bf A}cdot{bf C})-{bf C}({bf A}cdot{bf C})]_i
となります。これによってベクトル解析の公式
{bf A}times ({bf B} times {bf C})={bf B}({bf A}cdot{bf C})-{bf C}({bf A}cdot{bf C})
が導かれます。見た目はややこしいことをやっているように見えましたが、実際に手を動かしてみると、そこまで複雑ではありません。1つ1つ成分でばらして計算するよりは遥かに簡単です。

外積をレビ・チビタ記号を用いて書くことの有用性が少しでも分かって頂けたでしょうか?

レヴィ・チビタの記号

今回はベクトル解析の際に非常に役に立つ”レビ・チビタの記号”というものについて説明します。レビ・チビタというのはイタリアの数学者です。
レビ・チビタの記号はepsilonで書かれます。例えば次のように書かれます。
epsilon_{ijk}
このijkは1、2、3のどれかをとります。

レビ・チビタの記号の性質を挙げていきます。

レビ・チビタ記号はijkの中に同じものがあれば0になります。例えば
epsilon_{112}=0
となります。この場合はi=j=1となっています。同様にepsilon_{133}=0(j=k=3)などとなります。

定義として
epsilon_{123}=1
として、この添字の並びを遇置換(偶数回の置換を行ったもの)して得られるものは1、奇置換(奇数回の置換を行ったもの)して得られたものは-1となります。例えば
epsilon_{213}=-1
となります。この場合”213″という並びは、”123″という並びから”1″と”2″を置換を1回行うことで得られるため、レビ・チビタ記号は-1を返します。またepsilon_{231}=1
となります。これは”231″という並びは、”213″という並びから”1″と”3″の置換1回、あるいはもとの”123″という並びから数字の置換2回で得られます。そのためレビ・チビタ記号は1を返します。1か-1を瞬時に見極めるには、1から順に右に数字を読んだ時に”123″となれば1、”132″となってしまう時には-1と覚えればよいでしょう。この時は、一番右の数字を読んだ次には一番左の数字に移動します。

レビ・チビタ記号をベクトル解析で使う際には、2つのレビ・チビタ記号を掛けた形のものがよく用いられます。例えば次のような形です。
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}
ここで縮約のルールで、2度出てきている添字は全ての場合を足し合わせています。つまり
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=sum_{k=1}^{3}epsilon_{ijk}epsilon_{klm}
です。この形のレビ・チビタ記号は、実はクロネッカーのデルタdeltaを用いて次のように書けてしまいます。
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=sum_{k=1}^{3}epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl}
添字i、jは1つ目のepsilonから、l、mは2つ目のepsilonから来ています。添字の順番は覚えづらいかもしれませんが、これには実際に数字を当てはめて確かめるのが良いでしょう。重要なことは”2つのepsilon=2つのdeltaの差”という形です。

では実際に添字に数字を当てはめてみましょう。具体例として次のものを考えます。
epsilon_{12k}epsilon_{k12}
kについては和をとりますが、レビ・チビタ記号定義より、この項はk=3の時のみ値を持ちます。つまり
epsilon_{12k}epsilon_{k12}=epsilon_{123}epsilon_{312}
となります。epsilon_{123}epsilon_{312}の形は共に、epsilon_{123}から添字の遇置換で得られるので値として1をとります。すなわち
epsilon_{12k}epsilon_{k12}=epsilon_{123}epsilon_{312}=1
となります。この例から先ほどの式の添字の順番を確かめることができます。今回の場合i=l=1、j=m=2であり、結果が+1となっていることから、delta_{il}delta_{jm}の前の符号は+となり、その逆にdelta_{im}delta_{jl}の前の符号はーとなることが確認できます。

以上、すこしややこしい話になってしまいましたが、レビ・チビタ記号のこれらの特性は、ベクトル解析、特に外積の計算の際に非常に役に立ちます。

縮約について

今回は縮約というものについて話をします。縮約とは、アインシュタインが一般相対論を構築する際に考え、たただのルールのことです。ルールの内容は、”同じ添字が出てきたら足し合わせる”というものです。つまり、A_i B_i,,(i=1,2,3)とでてきたら次のように解釈しなさいというルールです。
A_i B_i=A_1B_1+A_2B_2+A_3B_3

一般相対論では、このようにベクトルの各成分の積の和を考えることが多いのですが、その度に和の記号sumを書くのはとても面倒で、見た目がややこしくなってしまいます。縮約のルールはそのような煩雑さを解消するために決められたものです。今考えた例はベクトル{bf A}とベクトル{bf B}の内積でしたが、これらの外積も縮約を用いれば簡単に書くことができます。ベクトル{bf A}とベクトル{bf B}の外積の第i成分はレビ・チビタの記号ベクトルepsilonを用いて次のように書くことができます。
({bf A}times{bf B})_i=epsilon_{ijk}A_j B_k
この例では、jとkの両方について1から3までの和をとれ、という意味になります。
epsilon_{ijk}A_j B_k=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j B_k

慣れないうちはsumを省略せずに書いても良いと思いますが、縮約を用いれば式がとてもすっきりとします。この縮約のルールは物理の分野では一般的に認識されているものなので、テスト等でsumを省略して書いても、おそらく大丈夫だと思います。心配であれば、縮約の規則を用いて書く、と一言付け加えておけば大丈夫だと思います。

重力について

ここでは重力の話をします。重力と言っても、ここで扱うのはニュートン重力と呼ばれる、ニュートン力学に登場するものです。この他にはアインシュタインの一般相対性理論に登場するアインシュタイン重力等があります。高校や大学の1年次までに習う重力はニュートン重力だと思ってよいかと思います。ニュートン重力はアインシュタイン重力の特殊な場合になっていて、ニュートン重力はアインシュタイン重力に含まれています。今回はニュートン重力のみを説明します。

ニュートン重力はとても単純です。質量Mと質量mの物体があればその間に引力が働きます。ニュートンの第3法則の作用・反作用の法則から、各物体に働く力は向きが逆方向で、大きさは物体間の距離をrとして次のように書くことができます。
{bf F}=frac{GMm}{r^2}
ここでGは重力定数と呼ばれるもので値が決まっています。この細かい値が重要になることはあまりないので、ここでは触れません。ニュートン重力の中の比例定数であることを覚えておくだけでよいと思います。

ここではさらに重力ポテンシャルというものを考えましょう。質量Mの物体があれは、その周りに重力ポテンシャルができるのですが、これは物体の周りの空間の歪みとして見なすことができます。歪んだ空間に物体がやってくると、その歪みに引きずられて物体の運動が変化しますが、これが重力の正体であると考えるのです。重力ポテンシャルUを用いて、質量Mの物体から距離rにある質量mの物体に働く重力の大きさは次のように書くことができます。
F=-mfrac{dU}{dr}
この式からU
U=frac{GM}{r}
の形であれば、ニュートン重力の式が導かれることが分かります。

質量Mの物体の周りには
U=frac{GM}{r}
という重力ポテンシャルが生じます。

荷電粒子に働く力

荷電粒子に働く力について説明します。家電粒子とは電荷を持った粒子です。例えば陽子、電子はそれぞれプラス、マイナスの電荷を持った荷電粒子です。荷電粒子には、電場磁場の下で力が働きます。ここではこれを説明します。

ある粒子が電荷qを持っていたとします。ここでqはプラス、マイナスどちらでも構いません。この粒子が、電場{bf E}や磁場{bf B}の下を速度{bf v}で運動している状況を考えます。電場や磁場はベクトル量で、大きさと向きを持っており、{bf E}{bf B}はそれを表しています。

この時にこの粒子が受ける力は次のように書くことができます。
{bf F}=q{bf E}+q{bf v}times{bf B}
右辺の第1項目が電場から受ける力、第2項目が磁場から受ける力です。電場から受ける力q{bf E}は電場と同じ向きに働きます。磁場から受ける力q{bf v}times{bf B}はローレンツ力とも呼ばれ、粒子の速度と磁場の外積で書かれます。これはいわゆる”フレミングの左手の法則”というものになっています。左手の中指から”電”"磁”"力”という覚え方が有名かと思いますが、電は電流を、磁は磁場を、力は粒子に働く力を表します。電流と磁場の方向とは垂直な方向に力が働くことになっていましたが、これは外積を表しています。ここでq{bf v}は電荷を持った粒子の運動、すなわち電流を表します。普段私たちが電流と言っているのは”電子”の運動のことです。

もしも外積の向きの定義が曖昧になってしまったら、フレミングの左手の法則を思い出してみればいいと思います。ここで念のため確認しておきましょう。
ローレンツ力q{bf v}times{bf B}の向きは、電流q{bf v}の方向から磁場{bf B}の方向へ右ねじを回した時のねじの向きになっています。

保存力とは

ここでは保存力について話をします。
保存力というのは、次の式のように書ける力のことです。
{bf F}=-{rm grad} U
ここでUというのは場所の関数、空間の各点に値を持つ関数です。”ポテンシャル”とも呼ばれます。”grad”は偏微分なのですが、関数Uに作用させて次のようになります。
{bf F}=-{rm grad} U=-(frac{dU}{dx},frac{dU}{dy},frac{dU}{dz})
このような形に書ける力を保存力といいます。

保存力の書き方、または”grad”の書き方には様々なものがあって、
{bf F}=-nabla Uまたは{bf F}=-frac{d U}{d{bf r}}
などとも書かれます。

保存という言葉の意味なのですが、これはエネルギーの保存を表します。ここで逆にエネルギーを保存させない力を考えてみましょう。例えば摩擦力の働いている物体は、運動の過程で運動エネルギーが失われて行ってしまいます。従って物体のエネルギーは保存せず、摩擦力は保存力には該当しません。つまり{bf F}=-{rm grad} Uの形で摩擦力を書くことはできないということです。

ここからは、{bf F}=-{rm grad} Uの形で書ける力の下で、物体のエネルギーが保存するということを示そうと思います。
空間の点P_1からP_2まで、ある粒子が動くとします。P_1にいる時に粒子の持っている運動エネルギーをK_1P_2の時はK_2とします。”K”は運動エネルギー=kinetic energyの頭文字です。

P_1からP_2に行くまでに粒子が受ける仕事をWとすると
K_2-K_1=W
となります。これは仕事の定義でもあります。ではこの仕事量Wを計算しましょう。仕事量は粒子の受ける力の大きさFに、その方向に粒子の動いた距離を書けることによって与えられます。すなわち、力とそれに伴う変移との内積で与えられます。今、力によって生じる変移が微小な距離d{bf r}である場合を考えると、この時に粒子なされる仕事量は
{bf F}cdot d{bf r}
と書けます。これをP_1からP_2まで移動する経路に沿って積分したものが、Wなります。この積分は次のように書かれます。
W=int_{P_1}^{P_2}{bf F}cdot d{bf r}
ここで力{bf F}が保存力だとすると、保存力の定義から次のように書き換えることができます。
W=-int_{P_1}^{P_2}frac{partial U}{partial{bf r}} cdot d{bf r}
被積分関数のpartial{bf r}とd{bf r}を”約分”することで、これはさらに次のような形に書くことができるようになります。
W=-int_{P_1}^{P_2}frac{partial U}{partial{bf r}} cdot d{bf r}=-int_{P_1}^{P_2}d U
このような”約分”の操作の正当性は数学的な証明によって保証されます。ここでは詳細には立ち入りません。この結果から
K_2-K_1=W=U(P_1)-U(P_2) leftrightarrow K_1+U(P_1)=K_2+U(P_2)
となります。すなわち、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和である”力学的エネルギー”はP_1P_2にいる時で変わらない、つまり保存しています。これは力{bf F}
{bf F}=-frac{d U}{d{bf r}}
の形に書けていたからです。

ここで注目すべき点があります。ここで示した結果を見ると、粒子が受ける仕事量はP_1P_2いる時の粒子のポテンシャルエネルギーのみによって決まっており、途中でどのような道筋を辿るかということに依っていません。P_1からP_2へのルートは本来無数にあります。けれども働く力が保存力である場合には、最初の点と最後の点のポテンシャルエネルギーだけによって、その間になされた仕事量が決まってしまうのです。例えば保存力ではない摩擦力が粒子に働いていたとすると、長い道のりを辿るほど、よりたくさんの摩擦力を受けて、粒子の力学的エネルギーは失われて行ってしまいます。

まとめると、保存力の下では
1. 保存力の下では、粒子の力学的エネルギーは保存する。
2. 運動の際になされる仕事は経路に依らない。
となります。

角運動量について

角運動量についての話をします。物体の角運動量はよく{bf L}を用いて書かれ、位置ベクトルと運動量ベクトルの外積で定義されます。
{bf L}={bf r}times{bf p}
外積ですので、角運動量の方向は位置ベクトルと運動量ベクトルに直行する方向になります。定義に位置ベクトルが含まれているため、角運動量は原点のとり方が変わると、それに伴って角運動量も変わります。

角運動量についてはその保存則を知っておくと便利です。これを導くには、角運動量の時間変化を計算します。角運動量の定義と、外積の微分の演算を行うことで、
frac{d{bf L}}{dt}=frac{d}{dt}({bf r}times{bf p})=frac{d{bf r}}{dt}times{bf p}+{bf r}timesfrac{d{bf p}}{dt}
最左辺の第1項目は速度ベクトルと運動量ベクトルの定義から{bf v}times(m{bf v})となり、平行なベクトル同士の外積は0になるので、この項は消えます。また第2項目に運動方程式を用いると、次のような式になります。
frac{d{bf L}}{dt}=={bf r}times{bf F}
すなわち、角運動量の時間変化は、位置ベクトルと力の外積で書けるということです。この位置ベクトルと力の外積を”力のモーメント”などと呼びます。力のモーメントが0の時には角運動量が変化しないことになります。つまり、位置ベクトルと平行な方向に力が働いている場合には力のモーメントが0になって、角運動量は一定になることになります。

例えば、原点に重力の源となる物体があり、その周りを運動する物体を考えます。この場合重力の性質上、位置ベクトルと平行になりますので、常に角運動量が保存することになります。

ダランベールの原理

ここではダランベールの原理について説明します。ダランベールというのは人の名前です。

この原理では、動力学の問題は静力学の問題に帰結できるという原理です。動力学とは、加速度を持っている物体を記述する力学、静力学は加速度を持っていない物体、すなわち”釣り合いの状態”にある物体を記述する力学です。

この2つの力学系における運動方程式は大きく異なっています。動力学における運動方程式は次のように書けます。
mfrac{d^2 {bf x}}{dt^2}=F_1+F_2+F_3
今、たくさんの力が働いている場合を考えています。静力学に対しては次のようになります。
0=F_1+F_2+F_3
動力学の運動方程式と静力学の運動方程式とでは左辺の形が大きく異なっています。

しかしながら、動力学の運動方程式において、左辺を右辺に移項するだけで、静力学の運動方程式と同じ形にすることができます。
0=F_1+F_2+F_3-mfrac{d^2 {bf x}}{dt^2}
このとき移行した項を、一種の力だと解釈して、これを”慣性力”呼びます。このようにすると、動力学の問題を静力学の問題に帰結することができます。

ここまで見ると、単に移行しただけだと思われてしまいますが、これは”動力学と静力学の問題を区別する必要がない”という重要な結論を導きだします。すなわち、動力学の問題はより単純な静力学の問題を解くことに帰結されるということです。

ここでもう一つ重要なことは、”帰結する”という考え方です。つまり、既に解法が分かっている問題に置き換えることができないかと考えることです。物理、数学、あるいはもっと広く科学という営みは、帰結できるかどうか、既に分かっているより簡単な問題に帰結できないかと考えることでもあります。いかにして帰結できるか、という考え方が非常に重要になります。

ダランベールの原理とは、動力学の問題を静力学の問題に帰結できるというこを示すものです。大変便利で有意義な原理です。またこの帰結という考え方が非常に重要な考え方ですので、しっかり頭にとどめておいて頂きたいと思います。

ニュートンの法則(運動の3法則)

今回はニュートンの法則、運動の3法則とも呼ばれますが、これについて説明します。ニュートン力学はこの3つの法則から全て導かれるといっても過言ではなく、とても重要なものです。

一つ目は慣性の法則です。慣性とは、”力が加わらなければ、物体はそのままの運動を続ける”という性質です。静止している物体は静止したまま、動いている物体は等速直線運動を続けます。物体の運動には、この”慣性”という性質があるといことを言っているのが、この慣性の法則です。何も力が働かないのに、いきなりものが動き出すことはありませんし、何も力が働かなければ、物体はそのままの速度で直進します。物体の運動の方向が曲げられるのは、何かの力が働く時です。

2つ目は、物体の加速度は力に比例、物体の質量に反比例するということです。ここまでの物理でやるように、式で書くとこれは次のように掛けます。
{bf a}propto{bf F}/m
力の単位を適当に合わせると、おなじみの式
{bf a}={bf F}/mあるいはm{bf a}={bf F}
となります。大学の物理っぽく書き直すと、加速度ベクトルは位置ベクトルの2階微分ですので、
mfrac{d^2{bf r}}{dt^2}={bf F}
となります。ここで質量が時間変化しないとすると、
frac{d}{dt}mfrac{d{bf r}}{dt}=frac{d}{dt}m{bf v}=frac{d}{dt}{bf p}={bf F}
となります。すなわち、運動量の時間変化が力に等しいという式になります。大学で扱う物理では、この形の運動方程式をよく用います。こちらの形の方は、例えばロケットのように質量が時間変化してく物体に対しても適用できますし、また特殊相対論で扱う運動方程式もこの運動量を用いた形になっています。運動方程式は英語では Equation of motion と呼び、E.O.Mとも簡略的に書かれます。

このfrac{d}{dt}{bf p}={bf F}の形の式を見ると、力が0であれば運動量は変化しないことになるので、第2法則は第1法則を含んでいるように見え、第1法則はいらないのではないかと思われる方がいるかもしれません。しかしながら、第2法則は第1法則が成り立つような状況でのみ、成り立ちます。なので第1法則もきちんと必要なのです。

3番目は作用・反作用の法則です。2つの物体A、Bがあって、AがBを引っ張ると、同時にBもAを引っ張るというものです。例えばプラスの電荷を持った粒子がマイナスの電荷を持った粒子を引っ張るのと同じ力で、マイナスの電荷を持った粒子がプラスの電荷を持った粒子を引っ張ります。また、壁をある力{bf F}で押すと、同じ力で押し返されます。これが作用・反作用の法則です。

ここで重要な点は、第1、第2法則はニュートン力学だけのものなのですが、第3法則の作用・反作用の法則はニュートン力学以外、例えば電磁気学などでも成り立ち、普遍性の強い法則です。しっかりおさえておきましょう。

ここまでで、やはり第1法則と第2法則の違いが分かりにくかったかもしれません。ここで補足します。
慣性の法則は、そもそも”力とは何か”ということを定義していると言えます。慣性の法則は、物体の運動を変化させるものなのだと言っています。この辺りはいろいろ調べてみると歴史的な背景等が分かって面白いと思います。現実問題として、物理の問題を考える際に何を使うかというと、主には運動方程式と作用・反作用の法則です。特に運動方程式を立てて、その微分方程式を解くということがメインの作業になります。

記法について

ここではこの動画で使う記法について説明します。

記法、英語ではnotationといいますが、これはあるものを表す時の書き方、ルールのことです。
例えばベクトルを表す際にはvec{r}{bf r}と書くことがありますが、最初に統一されたルールを示して、後に混乱することがないようにするのが、今回の目的です。

まずベクトルについてですが、ここでは太字{bf r}{bf v}{bf a}{bf x}等を用いて表します。
よく、原点から見た粒子の位置を表す際に位置ベクトルというものを使うのですが、これには{bf r}を用います。成分で書くと
{bf r}=(x,y,z)
となります。位置ベクトルというのは原点が変わってしまうと、それに合わせて変わってしまうものなので、原点としてどのような点をとっているかに注意する必要があります。粒子の位置が時間変化すると、この位置ベクトルも時間変化します。
また粒子の速度を表す速度ベクトルには{bf v}を用います。これは粒子の位置ベクトルを時間微分したものになります。
{bf v}=frac{d{bf r}}{dt}=(frac{dx}{dt},frac{dy}{dt},frac{dz}{dt})
あまり使うことはありませんが、加速度ベクトルは{bf a}を用いて表します。これは速度ベクトルの時間微分、位置ベクトルの時間の2階微分です。
{bf a}=frac{d{bf v}}{dt}=(frac{d^2x}{dt^2},frac{d^2y}{dt^2},frac{d^2z}{dt^2})

運動量ベクトルは{bf p}で表します。これは質量掛ける速度ベクトルです。
{bf p}=m{bf v}

この他に重要なものとして、単位ベクトルがあります。これは{bf e}で表します。例えばxyz軸があった時に、x軸方向の大きさ1のベクトルをx軸方向の単位ベクトルと呼び、{bf e}_xと表します。y、zについても同様です。成分で書くと。
{bf e}_x=(1,0,0)
{bf e}_y=(0,1,0)
{bf e}_z=(0,0,1)
となります。

順番が前後してしますが、tは時間を表します。

ここで説明した表記を用いて、これから説明をしていきたいと思います。